冬は凍える寒さと豪雪に見舞われ、
夏は厳しい暑さが襲う、四季の変化が顕著な東北の地。
そんな厳しい自然環境から人々を守り、暮らしを支えているのは建築です。
日々建築デザインを学ぶ、
才能あふれた学生は、地域の未来の暮らしを支える頼もしい存在。
「東北の暮らしをもっと楽しく、もっと創造的に。」そんな夢の詰まったアイデアが多数集まりました。
2018年11月29日、山形県米沢市の東京第一ホテル米沢にて公開審査による最終プレゼンと授賞式を行いました
対象となったのは、多数の応募作品の中から書類による一次審査を勝ち抜いた建築部門12作品、家具インテリア部門3作品。
学生たちは緊張感のある雰囲気の中、それぞれ熱のこもったプレゼンで審査員たちに自己の作品のPRに挑みました。
適性な審査ののち、建築部門グランプリ1作品、準グランプリ2作品、佳作5作品を選出。
さらに家具インテリア部門グランプリ1作品、準グランプリ2作品が選び抜かれました。
建築部門 最優秀賞
世界各地に存在する集落。都市化する現代において、集落には豊かな文化や住まい方が残っている。そんな集落が今減少してきている。集落の減少は単に集落が減少するだけでなく、現在につながる文化や住まい方も消滅してしまう。集落の豊かな文化や住まい方を残せないだろうか?集落のこれからを考えてみる。
敷地は新潟県村上市山熊田。山熊田では「灰」を使った生業である「灰の文化」が現在にまで受け継がれている。山熊田だけでなく日本各地にはかつて「灰」を使用した生業が存在していたが現在では減少してきている。そのような「灰」による生業の空間を今回は提案する。「灰」による生業の空間は山熊田の「灰」の生業の作業空間となり、また「灰」の生業を伝える継承空間になる。
建築部門 優秀賞
D/Hに着目したマチに漂う有機な囲み感の成り立ちを考える。
建築部門 優秀賞
古くから日本の木造建築は多くの和の細部を持ち合わせている。中でも組子細工は長い年月を経て、建具から始まり、姿やスケールを変え工芸品へと発展をとげてきた。そのデザインは、木のみを用いた合理性のある形や、形遊びによって展開したものなど、形はどんどん遊びながら姿を変えてきた。そこで本作品は、組子細工の町である由利本荘市を舞台に、組子細工をスケールアップさせ自然と融合させることで、光を通し、影を落とす組子細工の新たな「遊び」を持つ建築を提案する。
佳作5作品(順不同)
インテリア部門 最優秀賞
それぞれの空間ごとに暮らしている印象が違い、使用する人によっても感じ方は変わってくるもの。それはよく目に入るインテリアに大きく影響を受けているのではないかと考えた。視覚的に楽しめる家づくりを行った。
優秀賞2作品(順不同)
審査員
西村 伸也 氏
新潟大学 工学部
建設学科建築学 教授
東京大学 工学博士
横川さんの作品の講評
灰に着目した点に大きな可能性が期待される。伝統的な灰活用についても現代的な灰の展開についてもそれぞれがどのように空間化されるかを見ていくことも今後の課題としてある。
甲賀さんの作品の講評
D/Hを集合住宅の配置計画に改めて使うことで空間を変化させる仕組みを提案している点が高く評価された。もっと外部空間の個性がD/Hで示すことができるとも期待している。
佐々木さんの作品の講評
組子を建築のモチーフに外部空間を提案している点が高く評価された。植栽、織物、自然、人を表象する様々な伝統的組子の形は、より建築に近づく可能性がありそうだとも期待される。
室岡さんの作品の講評
きれいに構成された住宅の空間と共に、そのインテリアの住宅らしさが高く評価された。入口とリビングの空間、水まわりの提案がより整理されていくと、優れた住宅になる予感を与えてくれる。
総評
建築を目指す若い人達の力強い提案を聞きながら、それぞれが独自の力を持っていることを改めて感じることができた。これからの発展を期待している。
審査員
地濃 茂雄 氏
新潟工科大学 名誉教授
元新潟大学 非常勤講師
東京工業大学 工学博士
横川さんの作品の講評
地方の衰退が叫ばれて久しい中、地域や集落がどのような未来に向かうのか?その解の一つとして、「灰集落」をとりあげ、住み続けることの価値やその新しい仕組みを提案している。こうした問題解決に立ち向かう姿勢こそ、建築デザインの本質であり高く評価される。
甲賀さんの作品の講評
日々変化し続けているマチのあり姿を「建築高さ(H)」と「外部空間の奥行き(D)」との比から分析し、その手法を生かして漂う有機的な囲み感覚を表現している。未来に向けて、新たなチャレンジモデルが生まれるような優れた作品である。
佐々木さんの作品の講評
手仕事による繊細なモノづくりこそが日本文化の原点である。それが近代化の名の下に失われつつある現状を鑑み、忘れがちな伝統文化を組子細工の観点から掘り起こし、建築と自然との融合において、スケールアップしたデザインに成功した好感のもてる作品である。
室岡さんの作品の講評
住むことに新しい価値を見いだそうと果敢に挑戦した作品である。コンセプト、デザイン、プレゼンともに完成度が高く卓越した表現力は評価に値する。
総評
粒ぞろいの手ごたえある提案が数多くあり、可能性までも示唆するような魅力的な作品に感心させられた。特に社会的な問題意識も垣間見れた点は特筆に値する。この先に来るべき生活や社会まで拡げて表現する想像力に裏打ちされる建築設計作品に期待したい。今回の学生コンペにおいて、建築デザインへの取り組姿勢や考え方が発表者間、互いに把握できたことの意義は大きいものと想像する。
審査員
橋本 健史 氏
403architecture [dajiba]
筑波大学 非常勤講師
横川さんの作品の講評
灰というものの行き着く先であるような物質について、その循環や価値そのものを問いかける提案が鮮やかだった。山裾にひっそりと佇む配置計画も良い選択だと感じた。プログラムに研究開発や実験的なアクティビティを組み込み、この建築によって静かながらも動的に地域の物質の循環を促していくようなビジョンが示されれば、よりよい提案になったはずである。
甲賀さんの作品の講評
D/Hという古典的な指標でありながらも、それを小さな分棟住戸の配置計画に取り入れたことで、現代的で繊細な距離感をつくりだそうとしている点が新鮮であった。その繊細なコントロールが各住戸のプランニングや庭のデザインにもっと決定的な影響を与えていれば、より活き活きした生活造が示せたように思われる。
佐々木さんの作品の講評
組子からインスピレーションを得て考えられた、土木工作物のような家具のような不思議なオブジェクトの提案で、独特のバランス感覚があった。惜しむらくは組子の意味の側面だけでなく、構造的な応用や、プランニングとの連動が見出されれば、繊細さと力強さが同居した大変ユニークなものになったのではないか。
室岡さんの作品の講評
住宅をインテリアから考えるというコンセプトには可能性があると感じた。「古めかしい」や「ゆったりとした」といった空間に対するアプローチについて、もう少し自己批判的な検討がなされていれば、インテリアから考えたからこその提案に到達できたのではないかと思う。
総評
「建築の成り立ち」というテーマに対して正面から答えるのは難易度が高かったのか、多くの応募案で関連性を読み解くことが難しかった点は残念で、出題者として反省している。しかしながら軒並みレベルが上っており、充実した審査となったことは確かである。上記で講評を述べたもの以外にも、個人的には佳作の古市案、小原案、また選外とはなったものの小谷案は大いに可能性を感じさせるものであったことは強調しておきたい。一方、賞に選ばれたものも含め、多くの応募案は高い完成度を誇っているというよりは、さらなる発展が大いに期待できるものであった。建築の成り立ちを求めるには、終わることのない世界そのものへの関心が必要となる。このコンペを通して、新たな視点を持ち帰ることができたのであれば幸いである。
[ 主催 ]シエルホームデザイン
( 株式会社ホリエ )
[ 協賛 ]東北電力、
山形銀行、
荘内銀行
[ 後援 ]株式会社山形新聞社、
山形放送株式会社、
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